影師匠
私の仕事で影の師匠と仰ぐ人物が居る。
周りの同僚からは、疎まれているようなのだが・・。
その人物、U氏が現れたのはもう5年ほど前の
とある新規立ち上げラインだった。
ある製品のパイロットに関して、
インストールと性能確認に向かったのだが、
所定の動作をしていないことに気づいた。
現場に入ると、オペレートパネルの前で腕組をしている人が居た。
なんか、とりついているように装置に向かっていた。
U氏は、品質について、「データの鬼」として恐れられた男だった。
ご存知の方も多いと思うが、半導体ってヤツは歩留まり(イールド)が勝負だ。叩き出す性能がバリピンでも安定的に持続的に生産されなければ意味がない。ジャカスカ造って後で選り分けるってのも手なのだが、このラインで造ろうとしているのはその冗長性が許されない製品だった。
既存技術の積み上げで達成しようとしたラインもある。あっというまにラインを流すにはそのほうがいい場合もある。QTATを目指すならば手早い手法だ。もちろんそちらも成功しているのだが、前後プロセスが変わった際のキャッチアップには時間がかかってしまう。膨大なバックデータを生かしたオペレーションなのだが、ある意味コンサバな選択であり、既存技術の弱点を「判っていても止めらんない」事情を抱え続ける。しかも装置の一部はブラックボックス化されてて、誰も手が出せない。
だから、新ラインの優位性を生かすには、ここでこの場であらゆるデータを採り尽くす必要があった。Brand-Newなテーマであるからこそ、見落としちゃいけないデータがある。そしてそのデータがなんであるかはわからないからこそ全データ俯瞰で見ろ。データの鬼の姿をを目の前にして、肝に銘じた。
黙々と膨大なパラメータを入力し、出力されたデータたちを統計的な分析にかける。あらゆる要因因子をフィルタリングしながら足りないデータをまた採って加える。量産に入ったら変更不能な前後の変数を考えられるだけ振り回して、水準表を組みなおし、また入力を繰り返す。延々と作業が続いた。
クリーンルームの中での時間経過は体感できるものじゃない。たまに入る呼び出しの放送やチャイムで気づいて黄色いパーテーション越しに壁時計を見れば、短針は90度以上進んだ方向を指していた。
あるとき、思っても見なかった部分が少しイヤな挙動を示す分析結果が出てきた。本来の新ラインの優位性からは外れたジャンルに入る部分なのだがね。
もう、私も彼も、身体とノウミソと、消耗戦に入っていたが、その数値がディスプレイに表示される瞬間だけは、二人とも見逃さなかった。
お互い、3秒ほど目が合った。
そして、ディスプレイの前で、
クリーン服の中で脂汗をかきながらの睨み合いになった。
俺 :「いやぁ、測定ミスかもしれないし、このデータでは断定できん」
U氏:「るしさん、ちゃいますやろ。ほれ、ココ見てみ、
このデータの先であん中のそれが、
許せない動きをしようとしてるんや!」
俺 :「あれはココでは空けられないんだって!
それが無ければ動かない装置だし!」
U氏:「そりゃあんたもわたしもよぅ知っとる。
でもな、最後にたった数水準、
ありえない領域でや、こういう風に動かせば、
きっと馬脚をあらわすで。
データはあんたがもう採った。ココからが勝負や。」
#Uさんは生粋の関西人です(^^;;
・・・答えは、彼の言ったとおりだった。
彼は埋まりそうな程のデータを取りながら
データに埋まらなかった。
現場に居ないとわからない「その先」を見ていた。
前評判どおりの「データの鬼」である前に、
「実験の鬼」だった。
口も手も出す代わりに、感情も出すこともあるが、
それが彼を突き動かしていた。
世界有数の最先端量産工場は、そうやって立ち上がった。
今きっといろんな(あらゆる)場所で、そのチップは動いている。
#たぶん、これを読んでくれた誰かの手元にも、それはある。
今は、良好な関係だ。
U氏は、私が居るオフィスを訪れると、必ず寄ってくれる。
「るしさん、今日はまた何を怪しい開発してんのかなー?」
いやいや、Uさん、あなたにもそれは(まだ)言えません!
コレは僕の得意技、あなたとはちょっとやり方が違うけど。
けれど、あのクリーンルームでの出来事は財産になりましたよ。
#面当向かって直接言わんけどね、恥ずかしいからw
それでも「よー実験して、考えてえーもん造ったら良いんですよ」
品質に厳しい男にそう言ってもらえることは、励みだ。
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Comments
あれですねぇ。
技術畑に暮らしてりゃ絶対聞くことになる、
"最後はモノに聞け"
ですなぁ。
こーゆー叩き上げの技術者がどんどん減っちゃってるのが。
私は端くれの技術者なので遠い世界ですが(笑)
Posted by: irikura | 2006.11.26 11:00 PM
どもー。
>irikuraさん
"最後はモノに聞け"
まったく仰るとおりで、
コレ体感しないといけないと思うんですよ。
似たようなのに"現場百回"っつーのもありますね。
警察用語ではなくて、技術畑の体験として。
確かにこーゆー形で工程改善や生技ができる師匠、
減っちゃってるような・・・。
業務"カイゼン"からは見えない世界ですからねぇ(苦笑)
あ、irikuraさんも全然遠くないっすよ。
あなたもおいらもU氏も、居る場所違うだけで、
企業じゃ端っこだもん。
Posted by: lucifer | 2006.11.27 11:05 PM
カイゼン、もそうだけど、2007年問題辺りが大きいんでしょうねぇ。
本来伝えるべき世代だった人たちはバブル時代まっただ中だし。
バブルのせいで技術軽視になっちゃったし、、、
困ったもんだよねぇ。
Posted by: irikura | 2006.11.28 12:55 AM