かつて楽園と呼ばれた場所で
山崎まさよしさんの新しいアルバムに
こんな曲が入っている。
「かつて楽園と呼ばれた場所で
いつかの唄に応えるようにブランコが揺れる
今はもう誰もがそこを後にした 」
(追憶/Masayoshi Yamazaki)
曲を聴いた後でラジオで知ったのだが、
どうやら、炭鉱廃墟である軍艦島のイメージで描かれた歌詞のよう。
実は聴いたとたん、気持ちの奥で感じるものがあって
脳裏に記憶と、かつて見てきた風景がよみがえってきた。
音楽に込められたものは、
予備知識なしでもちゃんと伝わることを改めて実感する。
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私は、ちょっとばかり短い間だったけど、
空知の炭鉱のある街の風景を知っている。
#断片的な話を何度かこのblogに書いたこともあるのですが。
炭鉱街・鉱山街は、だいたい山深かった場所に拓かれ、
そこでほぼ生活の全てがまかなえるように発展していった。
だから、そこに居ればヤマを降りなくても不自由は無かったという。
こんな場所に?、と思う所にも都市銀行の支店と
系列メーカーの看板を掲げた家電販売店があった。
むしろ、山の下の旧市街よりも賑やかで活気があったという。
スキー場も公会堂も映画館も歓楽街もあって、
洒落た洋菓子屋さんも、レコード屋さんもあった。
もちろん、この繁栄は厳しい労働と環境の裏返しとして、でもある。
だから薬局と酒屋もとても多かったが・・。
たしかに、繁栄の間は「楽園」と呼べる世界だったんだろう。
私が知っているのは、その本当に最後期の、
最後のヤマが消えつつある時期のことなので、
かつて「楽園」だったものが、だんだん消えていく光景なのだが。
それからさらに20余年、あれは幻だったのだろうか。
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「名前も知らない小さな花が
おさない乳飲み子の手のように未来を探してる
ただひたむきに生きてくために 」
道道から少し奥の、炭鉱住宅や商店街のあった場所は
もう更地になり、原野に戻ろうとしていた。
そこに人の営みがかつてあったことを教えてくれるのは
かつての住人が庭に植えたのだろう、名も知らねど
草深い場所には似合わないような花々だった。
誰も居なくなっても、その地に根を下ろして咲いていた。
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「何を手に入れようとしたのか
望んだ明日が重すぎたのか
あの歌声が遠ざかっていく 」
ヤマのお祭り(山神祭)は、昔はとても賑やかで豪華だったという。
様々な地域からやってきた人の多い炭鉱は、
それぞれの持ち込んだ風習が残っていて、面白い。
しかしそれももはや、
老いて後継者も無く、消えていったのだ、と。
祭囃子は、人と共に去って、消えていく。
小学校だった空き地には桜の木が残っていて、
もう誰も居ないグラウンドには、静かに花吹雪が舞っていた。
遊具のブランコに乗る子供の姿もなく、
ここに歌声が響くことも、もう無いのだろう。
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「誰のための涙だったのか
それは届かない願いだったのか
手を下してしまった罪と
ただそれを見つめてた罪が
記憶の最後 心に呼びかける 」
もう少し前の頃、夕張でとても大きく悲しい炭鉱事故があったとき、
TVニュースで見た光景が、今でも忘れられない。
あの頃コドモだった私にでさえ、その寒さと悲しさと
地の底を想う絶望感が伝わった。
それが、消え行く時代の
「終わりの始まり」だったのだろうか。
1981年、1985年、そして1994〜5年。
定時以外にサイレンの鳴る、あの悲しさも、
でも深夜でも煌々と照らされる立坑の凛々しさと
寒い中でも湯気の暖かそうな繰込場の風景も、
私が見てきたものですら、
追憶の風景になって、もう久しいのだ。
だから、あなたがもしこの曲を聴いて
何か感じることが得られたとしたら、
こんな風景があったことも知っててくれたら、と思うのだ。
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Comments
はじめまして
「追憶」の歌詞、私もラジオで軍艦島のこととか炭鉱のこととか・・・と言われてはっと思いました。
「だれのための涙・・・」のところはイマイチピンとこなかったのですが、夕張の炭鉱の話を見てちょっと胸が熱くなりました。
とても興味深い内容でしたのでブログのほうで紹介させてもらってます。
もし何か不都合とかございましたらご一報ください。
事後報告になってすみません。よろしくお願いします。
Posted by: ukkey | 2009.05.15 02:33 PM
>ukkeyさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
山崎さんがなぜ今このテーマを選んで曲を書き、
ここまで克明な描写ができたのか、謎なのですが、
サウンドも含めてこの曲の中に込められた想いは、
私の中にあった追憶を呼び出す力を持っていました。
曲を聴いてここに来て、知って頂けたことは、とてもうれしいですよ。
Posted by: lucifer | 2009.05.15 09:43 PM